「ホス狂い」は遠い世界の話、自分には関係のない話だと考えていました。
そもそも私は男だし、大学生だし、お金もないDTだし・・・。
しかし、本書で登場するホス狂いの一人の発言に、妙な胸の引っかかりを覚えました。
「(ホスクラの魅力は)自己承認欲求が満たされるところですね」
ホス狂いの人たちが、単にホストに夢中になっているだけならこんな回答にはならないはず。
きっと、「ホストが大好きだから」「ホストに会いに行けること」
上記のようなコメントが自然かと。
だから、ホストクラブ(以下、ホスクラ)の魅力として承認欲求をあげたことに違和感を覚えたのです。
そこで私は考えました。
もし、ホス狂いの人が承認欲求を満たすためにホスクラに通うのだとしたら、私たち一般人にもなにか共通するポイントがあるのではないか。
承認欲求というのは、人間がもつ普遍的な欲求です。
であるならば、ホス狂いという世界は、決して私たちと無関係の世界ではないのではないとかと。
本書を読みすすめながら、承認欲求について色々考えてみました。
私自身の恥ずかしい体験談を交えながら、本書の感想・意見についてまとめていきます。
『ホス狂い』とはどんな本なのか?

本書は大泉りか氏による、ホス狂いの人たちの実態を追った、ノンフィクション作品です。
ルポルタージュというジャンルですね。
著者は、官能小説や女性の生き方をテーマにしたエッセイなどを執筆している女性作家。
本書では女性ならではの切り口で、ホス狂いの人たちの心情やホスクラでの実体験をつづっています。
本書を読んで衝撃だったのは、ホス狂いになる女性の人たちというのは意外にも「普通の人」だということです。
著者は本書の中で、ホス狂いの方たちを「冷静」という言葉でたびたび評価しています。
しかも、彼女たちの多くは美人だとか。
なぜ男にもてるような女性がホストに狂ってしまうのか。その過程が赤裸々に描かれていて本当に面白いです。
ホス狂いになった経緯は人それぞれ異なり、一概に1つの属性でくくることはできないのだなぁ、と勉強になりました。
「いちばんお金を使ってるかぎりは、ほかの女にとられない安心感がある」
本書で最も印象に残ったセリフをご紹介します。
「いちばんお金を使ってるかぎりは、ほかの女にとられない安心感がある」
私はこのコメントを目にしたとき、心臓がキュッと締まるような寂しさを感じました。
ホスクラの世界においては、使ったお金の金額がそのまま愛の指標になります。
一般的な恋愛では、相手との性格の相性や、どんな言葉をかければいいかを考える必要がありますよね。
これって非常にめんどうだし、曖昧です。
たとえば、相手が急にそっけない態度を取るようになれば、関係の修復が求められますし、そうならないためにも定期的に関係のメンテナンスが大切になってきます。
しかし、ホスクラではそんな不安要素がないのです。“お金”という1つの指標ですべてが決まります。
そう考えると、ホスクラのシステムはわかりやすくて親切だと捉えることもできます。

とはいえ、ここにホスクラの儚さがあります。
なぜなら、常にお金を使い続けることはできないから。
ホス狂いの人は、ホスクラに通うお金を工面するために夜商売をしています。
市場の需要的に、若い人のほうが有利なことは事実でありまして、常に貢ぎ額トップを取れるほどお金を用意することは難しくなってくるのです。
お金を出せなくなった末路はやはり悲惨なものです。
ホストには愛想を尽かされ、見向きもされなくなってしまいます。
上記のホス狂いのコメントには、ホスクラという場所のメリットを享受しつつも、いつかくる終わりを悟っているような寂しさを感じてしまうのです。
ホス狂いたちの承認欲求の共通点
ホストに狂ってしまった経緯は人それぞれありますが、根底にある欲望は同じだと思います。
それは「私だけを見ていてほしい」ではないでしょうか?
たとえば、アイドルファンとホス狂い。両者には好みの異性を追っかけているという共通点があるものの、客同士の関係に違いがあります。
アイドルでは、同じ“推し”のファンを見つけると、仲間を見つけたかのような一体感が生まれます。
ファン自身も、自分以外にたくさんのファンが自分の推しのことを応援していることを誇りに感じている状況です。
しかし、ホストでは違います。他の女に取られないように大金を貢いで1番になろうとします。
ホストからの視線を自分だけの独り占めにしたいのです。

アイドルファンとホス狂いに上記のような違いを見いだせるのは、両者に承認欲求の違いがあるからだと考えました。
実体験:ホス狂い的承認欲求で悩んだ時期
私自身の生活の中で、ホス狂い的承認欲求をべらぼうに感じた心当たりがあります。
当時、私は中学2年生。私は友人関係における、自分の優先順位についてひどく悩んでいました。
私には学校でいつも一緒に行動する“いつメン”と呼べる友人たちがいました。
ある日、インスタを見てみると、その友人たちが自分を除いて楽しそうに遊んでいる写真を投稿しているではありませんか。
「あれ、なんで俺のこと誘ってくれなかったんだろう・・・」って当時は家でしおれていました。
しかも、1回だけならともかく、それが複数回続いたものですから、めっちゃ傷ついたのを覚えています。

とはいえ、私がいじめられているとか、ハブにされているとかそういうわけではなかったんですよね。
会話にも入れてくれるし、冗談をいえる関係にはありました。
そこで思い至った結論としては、「俺はみんなの中で優先順位が低いんだ」ということです。

学校で過ごすぶんにはいいけど、遊びに行くなら別のメンツ。
いやー正直きつかったです。自分は彼らのことをいつメンとすら思っていたのですから、この事実には震えましたね。
みんなの中では、俺は学校だけの友人だったわけです。
自分の実体験とホス狂いの心境は似ているかも?

話をホス狂いに戻しましょう。
ホス狂いはホストからの注目を自分だけのものにするため、大金を貢いでいます。
これってお金を払って自分の優先順位を上げることと同義だと思います。
人間関係って自分の思い通りにいかないことが多すぎます。
相手のそのときの機嫌や相手にかけるたった一言で関係が左右されるという場面も少なくありません。
こういう不確実な要素を、お金というカンタンな指標ですべて解決したくなる理由は、それなりに理解できるんですよね。
もしかしたら、お金である必要はないのかもしれません。
小学生の間なら超レアなカードをみんなに見せびらかすとか、大学生なら昼飯をみんなに奢って注目を集めるとか。
こう考えると、ホス狂いのような人目を引きたい欲って、みんなの中に普遍的に存在するのではないかと感じましたね。
まとめ|ホス狂いは、私たちと無関係ではないかも・・・
本書を読んだ結論として、私はホストに狂ってしまう人の特徴にはある種の承認欲求が共通しているのではないかと考えました。
それは夜の世界とは縁遠い、私たちにも当てはまることではないでしょうか?
私は本書を読んで、そのことを強く実感しました。
私は男なのにもかかわらず、ホス狂いの人にウンウンと共感しながら読んでしまいました。
本書はホスト依存の物語ではなく、人間のありのままの承認欲求を描いた話だったのかもしれませんね。
今回は以上です。読んでくれてありがとう!